越境ECで直面する課題と解決方法を解説!おすすめの進出先も紹介
世界の越境EC市場規模は拡大傾向にあることから、越境ECを検討する日本企業が増えています。国内市場が少子高齢化により縮小していくことが予想されるなか、越境EC参入により海外に新たな販路を獲得でき、売上増加が期待できるでしょう。
しかし越境ECを展開するうえでは、いくつか解決すべき課題があります。そこで本記事では、越境ECにおける課題とその解決方法を解説します。
課題があっても越境ECが人気である理由とは
越境ECには言語や決済方法などさまざまな課題があるにもかかわらず、市場拡大が続いています。さまざまな課題があるなか、それでも越境ECの人気が高い理由について解説します。
スマートフォンの普及によって買い物がしやすくなったため
スマートフォンは、多くの人々が携帯するPCとしての機能を持ち、ECサイトの利用を容易にしました。インターネット接続が可能なスマートフォンの普及は、特にインフラが整っていない国や地域でも急速に進みました。これは、基地局を設置することで、比較的低コストで移動通信ネットワークを整備できるためです。
また、翻訳機能や多言語対応のECサイトの増加により、言語の壁が低くなり、国境を超えた買い物の障壁が以前より下がったことも、越境ECの利用を後押ししています。
通信インフラの整備とスマートフォンの普及により、越境ECはさらに身近な存在になりました。
旅行者がリピーターになっている
近年、テレビなどでインバウンドの活況が報じられることが増えました。実際に、訪日外国人旅行者はコロナ禍直前の2019年の水準(約3,200万人)には及ばないものの、2023年には約2,500万人と、2016年の水準まで回復しています。
それに伴い、インバウンドの旅行者が商品のリピーターとなり、越境ECで日本の商品を購入するケースが増えています。
越境EC支援大手企業のBEENOSが、アメリカ、中国、マレーシア、イギリスのサービス利用者に実施した「越境 EC の利用意向調査(2021年9月実施)」によると、「訪日後に越境 ECで気に入った商品をリピート購入したいか」という質問に、8割以上の人がリピート購入に越境ECを活用したいと回答しました。
日本で気に入った商品があったとしても自国でその商品を購入できない場合、越境ECを利用してその商品を購入していることがわかります。
参考:BEENOS「~越境ECを利用する海外のお客様800名にアンケート~」
日本製品の需要が高い
日本製品の需要が高いことも、越境ECの人気を後押ししています。
電通が2022年に海外の中高所得者層向けにおこなった「ジャパンブランド調査」によると、日本製品は他国の製品よりも機能面が高く評価されています。「ハイテク」「細部まで作りこんでいる」「上質である」「高性能」「壊れにくい・長持ち」「信頼できる」といった評価があがっていました。
また、経済産業省の「令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書」では、中国人が「越境ECを活用してでも日本の商品を購入したい理由」として、「国内にないものを購入できる(52%)」「正規品等、信頼できる先から購入できる(44%)」「高品質である(41%)」といった意見があがっていました。
自国では購入できない日本の機能面に優れた高品質な商品を、信頼のおけるところから購入したいという需要があることが伺えます。
参考:ウェブ電通報「外国人が読み解くジャパンブランドの魅力と課題~「日本製品」編」
参考:経済産業省「令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書」
越境ECに取り組む企業が答える課題とは
海外の消費者という新たな顧客を獲得でき、売上増加が期待できる越境ECに取り組む企業は増えています。しかし、日本政策金融公庫の2024年1月発表の資料によると、越境ECに取り組む企業は主に次のような課題に直面しています。
・販売先国・地域(市場・制度・ECサイト・提携相手)に関する情報不足:販売先の国・地域ごとに、法的規制などの事前に確認が必要なことがある。
・ECサイト構築や販売促進への対応:自社で越境EC用のサイトを構築することが困難。自社だけで実施できる広告やプロモーションに限界がある。
・自社ブランドの認知度向上が難しい:競合商品が多く、現地の消費者に認知されづらい。
上記以外にも、「物流や通関、関税支払い、返品などにかかるリスク」や「規制対応や商品開発」に課題を抱えている企業が多く見られます。
越境ECの展開における6つの課題と解決法
越境ECの展開においては、さまざまな課題に直面する可能性があります。ここでは、越境ECの展開における6つの課題と、その解決法について解説します。
市場調査
越境EC参入時に、情報不足を課題に抱える企業も多く見られます。そのため、まずは市場調査を入念におこなうことが大切です。
越境ECは非常に規模が大きい市場のため、「どのような国・地域」で、「どのような消費者」をターゲットとするかを明確にすることが大切です。
まずは越境ECで参入する国を決める前に、「その国や地域で日本製品の需要が高いかどうか」や「その国や地域での越境ECの市場規模や将来性」を調査しましょう。そのうえで、参入可否を検討します。
参入を決めた場合は、市場調査を踏まえたうえで、インバウンドの購買データなどから自社の商品がどの年齢層や属性の消費者に需要があるのかを把握し、ターゲットを選定します。
販売方法
越境ECに取り組むなら、自社商品の販売方法についても決めておく必要があります。
越境ECをおこなう際には、自社で越境EC用のサイトを構築するほか、Amazonなどの越境ECプラットフォームを活用する方法が一般的です。
また、越境EC用のサイト構築の際は、多言語対応やターゲットとする国や地域に合ったサイトのデザイン、さまざまなデバイスに対応したレスポンシブデザインなどが求められます。
自社の方針や商品に合った販売方法を選択し、越境ECに対応したサイトデザインを構築しましょう。
言語の壁
越境ECでは、多言語対応も課題になります。トップページやカートページ、サポートページといった、すべてのページを参入する国に合わせた言語に切り替える機能が必要です。
日本語を他の言語に翻訳すると、文章が長くなってデザインが崩れる可能性があるため、それらを想定したサイト構成にしましょう。
また、海外の消費者からの問い合わせや返品などに対応するために、言語に精通したスタッフを雇用する必要もあります。
決済方法
越境ECに取り組む場合は、決済方法も課題となります。あらかじめ参入する国や地域において利用率が高い決済方法を確認し、最適な方法を用意しましょう。主な決済方法は次のとおりです。
・クレジットカード
・電子マネー
・PayPalなどの仲介型決済サービス
・銀行振込
・デビットカード
・代金引換
など
消費者の利便性を考慮して、複数の決済に対応することが望ましいでしょう。
上記の決済方法の中でおすすめしたいのは、クレジットカードです。クレジットカードはどの国でも決済方法として採用されていることが多く、他の決済方法に比べて代金の未回収が起きにくい傾向にあります。
配送方法
越境ECでは、商品を破損させずに手早く消費者に届ける必要があります。
海外への長距離輸送は破損や紛失といったトラブルが発生しやすいため、トラブル時のサポート体制が充実した配送業者を選びましょう。
加えて、商品の配送後に発生したトラブルに備えて、越境ECサイト内で消費者の目のつきやすい場所に問い合わせフォームを設置することも大切です。
法律対応
国ごとに越境ECに関わる法律も大きく異なるため、越境ECに取り組む際は、商品を販売する国の法律について学び、それに従う必要があります。
国によっては、法律や規制により商品の販売に許可や申請が必要だったり、酒類などは販売が制限されていたり、一回あたりの取引額などに上限が設定されていたりします。
現地の法律を詳しく知らないまま商売をおこなえば、思わぬトラブルに発展する可能性もあるでしょう。また、関税も国や商品により税率に大きな差があります。
そのため、越境EC参入時には、次のような知識を学んでおくことが大切です。
・ビジネスライセンスと許可
・税金(消費税・輸入関税・環境税など)
・電子商取引システム
・商標・特許・著作権
・年齢制限(COPPA規制の遵守など)
・プライバシー法(CCPAやGDPRなど)
など
越境ECの展開においておすすめの進出先
越境EC展開時には、日本製品の需要があり、かつ越境EC市場の規模や将来性がある国に参入することが大切です。
ここでは、越境ECの参入先としておすすめの国を解説します。
ベトナム
ベトナムは、インドシナ半島に位置する国です。1976年に独立国家となってから1986年以降、市場経済化が進められ、2000年から10年間の経済成長率の平均は7.26%と高い成長を遂げ、中所得国となりました。
2023年のGDP成長率の推定値は前年比5.05%で、現在も高い経済成長を続けています。
そんなベトナムのEC市場規模は2022年に164億ドルに達し、2025年には300億ドルに達すると見られています。EC市場が活況で、インターネット利用者率は8割弱とインターネット普及率が高く、経済成長が著しいベトナムは有力な越境ECの候補先だといえるでしょう。
中国
中国は、BtoCのEC市場規模が世界で最も大きい国です。経済産業省の「令和4年度電子商取引に関する市場調査」によると、2022年の世界におけるBtoCのEC市場規模は5.44兆ドルですが、そのうち50.4%は中国が占めます。
中国では越境EC市場の規模も大きく、市場規模は右肩上がりの状況にあり、2024年にはその規模が1,824億ドルに達すると予想されています。同調査において、中国では越境ECで購入したい日本の商品として挙げられたのは美容コスメ・衣料品・アパレル・食料品・アルコールでした。
EC・越境ECが広く利用され、市場規模も大きく、日本製品への信頼性と人気が高い中国は、越境ECに参入するべき国といえるでしょう。
中国の越境EC市場については以下の記事でも解説していますので、参考にしてみてください。
関連記事:中国越境EC市場の最新動向と攻略法|中国EC市場の特徴も解説
タイ
タイは、インドシナ半島中央部に位置する国です。経済成長率はコロナ禍の2020年にマイナスになったものの、2021年から2023年は平均で2%以上の成長を遂げています。2023年のGDPは、ASEANで2位の5,122億ドルです。
国際情報化協力センターが2024年に公表した「タイ 最新IT事情」によれば、固定インターネット通信の人口普及率は19.36%と低いものの、移動通信の人口普及率は184.97%と非常に高い国です。
また、タイのEC市場規模は右肩上がりで、2023年には約3.5兆円に達し、2025年には約4.5兆円に達すると予想されています。
経済的に発展していて移動通信の普及率が高くECが活況なタイは、越境ECの有力な候補先になるでしょう。
台湾
台湾は小さな面積の国でありながら、2022年のGDPは7,608億ドルです。2023年の経済成長率は前年比1.31%で、2024年は3.43%と予想されています。
台湾はEC市場が拡大傾向にあり、EC化率が10.4%と高い国です(日本は7.9%)。また、親日国であることから日本文化や商品が身近であり、日本製品に対する越境ECの需要も十分にあります。加えて、全土に郵便局による運送網が整備されています。
日本製品に対して親しみがあり配送の基盤が整った台湾も、越境ECの候補になるでしょう。
越境ECの課題は事前調査と準備をおこなって解決しよう
越境EC市場は、規模が大きく急成長を続けている魅力的な市場です。参入には市場調査や販売方法、言語の壁などの課題がありますが、十分な事前調査と準備をおこない、これらの課題を解決していきましょう。
越境ECにより海外へ販路を広げられれば、売上の向上や新規顧客の獲得などが期待できます。日本市場は少子高齢化の影響により縮小傾向にあるため、EC市場で生き残るためにも海外市場へ目を向け、越境ECに取り組むことを検討してみてはいかがでしょうか。